賃貸マンションを建築するにあたって
師のように思い、
家族ぐるみの付き合いであった
不動産コンサルタントの松本さんにコンサルタントを頼み
マンション建築予定地も購入した。

だから
実際にどのようなマンションを建てるかの相談の際
「おまかせ建設会社」を松本さんが推してきたことを
無視するわけにもいかなかったという事情もある。

その「おまかせ建設会社」の営業と会うことにして
私たち家族は、駅前の喫茶店で待ち合わせをした。

 「はじめまして!
 松本コンサルタントから話は聞いています。
 私は、おまかせ建設会社営業部長の安田と申します」

いかにも営業に長けているという感じの
営業部長が私たちをにこやかに出迎えてくれた。

でもいい感じだと思ったのは名刺をもらって
挨拶をされたときだけであった。
それ以降は、安田さんが一方的に話を進めていったからだ。

ファーストコンタクトは
安田さんの簡単な自己紹介と
おまかせ建設会社の会社概要や施工例などの説明
そして、そこから
私がどういうマンションを建てたいかという
要望を話すという感じに捉えていた。

ところが、全くそんな感じではなかったのだ。

挨拶もそこそこに
既に私が賃貸マンション建築を
おまかせ建設会社に依頼することが決まっているような
感じに話が進んでいったので
私は戸惑いを隠せなかった。

初めて会ったのに
こちらの要望を聞こうともしない。

建設会社の営業は、発注者の要望を丁寧に聞き取り
会社に持ち帰り
見積もりを出すのが
正式な流れではないのだろうか?

こちらとしては
いくつかの会社に相談し、
いろいろ比べて一番フィーリングが合う会社に
建築を依頼したいと考えている。
デザイナーにもこだわりがある。
デザイナーは絶対譲れない条件なのである。
だからおまかせ建設会社は、
建設会社候補の一つでしかないのに。

しかし、私の話を聞く耳を持ってくれなかった。

話そうとすると
言葉をかぶせるようにして
松本コンサルタントが
 「そのことは、いいねん。
 私からちゃんと伝えてあるし
 後で確認もするから」
と私が話すことを制止してしまう。

初めての雰囲気に飲まれてしまって
事実上私は固まっていた、と今では思う。
それに、私と松本コンサルタントの人間関係上
松本氏の言葉を無視して話すことができなかった。
それで私は心の中ではもやもやしているのに
営業部長の話を聞くしかなかった。

松本コンサルタントは、
デザイナーのことを伝えていると
言っているのかもしれないが
それだけでなく
自分自身が直接聞きたいことがいろいろあったのに。