吉野さんが、軌道修正してくれた後、
そこから、今の一番の課題である、
耐震構造ができていないことについて論議した。

中山社長は
 「耐震構造?
  そんなこと心配しなくていいです。
  私は一級建築士の資格をもっているし、
  構造計算の資格も持っている。
  大丈夫に決まっている」
と話を抑え込もうとした。

中山社長が資格を持っていようが、持ってなかろうが
そんなことは目の前の問題と関係がない。

私のマンションの耐震構造ができていなければ
話にならない。
今は、具体的な話をしてほしいと考えていた。
私としてはデータや図面で
堅固な耐震構造を備えていることの説明をしてほしかった。

中山社長は
私の言葉にかぶせて食い気味で押さえ込んでくるので
なかなか言葉をはさめずに困っていると
リモート参加の吉野さんが
 「中山社長の意見対応が非常に曖昧です。
  大丈夫だとか、大丈夫じゃないという表現が非常に多いが
  そんな曖昧な言葉でなく
  ちゃんと具体的な話をしてほしい」
と突っ込んでくれた。

吉野さん、ありがとう。さすがです。

その一言で中山社長が黙ったので
私も話しやすくなったのだった。

一か月前に会社に出向いて話しあいをした時は
社長は同席していなかったので、
聞いていないかもしれないと思っていたから
そのいきさつを簡単に説明し、
 「そのとき中山専務は、
  『会社としてのしかるべき対応方策を二、三日中に示す』
  とおっしゃったのにも関わらず
  いまだに専務から返事をもらっていません!」
と、私も妻も抗議した。

でも、それに対しても
のらりくらりと話をそらして
なぜ中山専務が会社としての回答をくれなかったのかの説明すらしてくれなくて、
耐震構造についての疑問も解消できなかった。

私たち夫婦が何かを言うと、
中山社長は、肝心な内容にはふれず
ピント外れな言い返しをしてくるだけなのだ。

そんな中、吉野さんがしびれを切らして
 「この建物は絶対に危ないです。
  そんないいかげんな建物建てておいて、
  施主にこれ以上何か費用負担させようとするのはおかしいし
  こんな建物を引き渡ししてもいいものかどうか
  とても疑問を感じます。
  この問題はおまかせ建設会社自身の威信に関わる問題ですよ!?
  もっと真剣に考えて下さい」
と言ったとき、中山社長が突然
  「最悪、施主Pが、
  このマンションを引き取れないというのなら、
  うちで買い取ります」
と言い切ったのだ!

耐震構造についての答えを得ることができず
困り果てていたので
私たちは、それを聞いて、
これで解決の糸口が見えたと思った。

耐震対応の答えをくれないのなら
それも解決方法の一つだからだ。

それで、それを了解して、
 「早い時期に買取り価格を提示してほしい」
と要請してこの日の協議を終えた。

この時のやり取りは録音して文字に起こしてあるが
本当にひどい。
吉野さんが何度も軌道修正してくれていなかったら、
何も結論が出ていなかったと思う。